165. リズム知覚における小脳と大脳基底核のもつ情報の違い

私たちは音楽など周期的な感覚入力に対してリズムを感じ、それに合わせて踊ったり手拍子したりすることができます。これは私たちがリズムを感じているとき、脳内には繰り返される感覚入力のパターンに対する内部モデルと、リズムに合わせて体を動かすための運動信号の2つの情報があるためだと考えられます。私たちはこれまで、サルが規則的に繰り返される視覚刺激のタイミングを予測しているとき(欠落オドボール検出課題、図1A)、その小脳(歯状核、大前ら, J Neurosci, 2013)と大脳基底核の線条体(尾状核、亀田ら, eLife, 2019)のニューロンが時間予測的な周期活動を示すことを報告してきました。本研究では小脳核と線条体がリズム知覚に感覚と運動のどちらの情報をもっているかを明らかにするため、行動課題を一部改変し、中央の固視点に対して繰り返し刺激と眼球運動の標的をそれぞれ左右に配置した全4通りの組み合わせでサルに課題を行わせ、その際の神経活動を調べました。先行研究の通り、これらの脳部位には時間予測中に周期活動を示すニューロンが多数みられました。両領域の多くのニューロンは4通り全ての条件で活動を示しましたが、小脳核では繰り返し刺激の位置、線条体では眼球運動の標的の位置によって周期活動の大きさを変化させるものが多いことがわかりました(図1B、C)。これらの結果から、リズム知覚において小脳と大脳基底核はどちらも刺激条件によらないリズムの表象をもつと考えられますが、小脳は感覚刺激タイミングを予測する内部モデルの生成に、大脳基底核はリズムに基づいた運動準備に主に関与していることが示唆されます。

Sensory and motor representations of internalized rhythms in the cerebellum and basal ganglia.
Masashi Kameda, Koichiro Niikawa, Akiko Uematsu and Masaki Tanaka.
Proc Natl Acad Sci U S A 120(24): 2023.

 

 

<図の説明>

(A)行動課題。サルは一定の時間間隔でフラッシュする視覚刺激の不意の欠落を検出し、標的に向かって眼球運動するように訓練した。繰り返し刺激の位置と眼球運動標的の位置を試行毎に左右独立に配置することで、リズムに関した神経活動の感覚運動成分の分離を試みた。(B)小脳核と線条体のニューロン活動の例。小脳核ニューロンは繰り返し刺激の方向、線条体ニューロンは眼球運動指標の方向によって神経活動が変化している。(C)一般化線形モデルを用いた感覚運動成分の比較。モデルより得られた神経活動の感覚方向と運動方向の係数推定値をそれぞれプロットした。小脳核では感覚刺激の位置、線条体では運動標的の位置によって多くのニューロンの活動が変化した。