148. 深海の圧力で筋原線維の構造と機能の変化を解明

深海4千から8千メートル相当の静水圧(40~80MPa。1MPaは約10気圧)は、タンパク質表面の水和状態を可逆的に変化させ、タンパク質同士の結合を弱めることで脱重合などの構造変化を促すことができます。溶液組成を変化させる溶液交換操作とは異なり、可逆的かつ均一にタンパク質集合体に作用させられるのが静水圧操作の特徴です。この静水圧操作によって筋原線維の構造と機能をどのような変化させられるのかを明らかにしました。実験には日本白ウサギの腸腰筋から取り出した筋原線維を用いました。40~80MPaの静水圧を加えた状態で光学顕微鏡を用いて観察を行う高圧力顕微鏡法を利用し、加圧中の筋原線維の構造変化や、加圧中や加圧処理後の筋原線維の自励的収縮振動の性質を明らかにしました。なお今回の実験に用いた圧力は燃料電池自動車に搭載する高圧水素ボンベ内(35MPaまたは70MPa)レベルに相当します。研究分野は異なりますが、超高圧が生物の性質を変えることを示した新たな成果と言えます。

Effects of high-pressure treatment on the structure and function of myofibrils.,Seine A. Shintani,Biophysics and Physicobiology, 18, 85-95, 2021.

40~80MPaの静水圧を加えた状態で光学顕微鏡を用いて観察を行う高圧力顕微鏡法を利用し、加圧中の筋原線維の構造変化を観察しました(上図)。溶液中のアデノシン三リン酸の有無や、加える圧力の強さと時間で、惹起される構造変化は変化します(上・中段図)。筋原線維が収縮と弛緩を繰り返す自励的収縮振動状態になった際に、静水圧を高めると、40MPaでも振動は続きますが、50MPaでは振動は見えなくなります(下図)。しかし、静水圧を大気圧に戻すと、速やかに再び自励的収縮振動状態に戻ります(下図)。