視床下部の視交叉上核(SCN)は、中枢概日時計として、安定したリズムを発振する機能と、動物の行動や身体機能をON・OFFにする時間帯を定める機能を持っています。SCN回路は複数種のGABA神経で構成されますが、後者のメカニズムは良く分かっていません。今回、背内側に局在するバソプレシン/GABA神経が、GABA伝達を介してSCNの神経活動を制御し、動物が行動を起こす時間帯を設定していることを明らかにしました。バソプレシン神経から特異的にGABA放出能を欠損させた遺伝子改変マウスは、SCNの時計遺伝子リズムには異常がないものの、行動の開始時刻がそのリズムに対して早くなり、終了時刻は遅れるという、フリーランリズムに異常を示しました。またSCN全体の神経活動は、正常マウスでは、昼に高く夜に低い、単峰性のリズムを示しますが、この遺伝子改変マウスでは、昼に加え、夜にも活動のピークを生じる二峰性のリズムを示し、神経活動が低下するリズムの谷間に、動物の行動が表出することが分かりました。このようにGABAを介したSCN回路の神経活動調整は、時計遺伝子リズム上の適切な時間帯に脳や身体機能をON・OFFするタイマー設定を担っているとみなせます。
GABA from vasopressin neurons regulates the time at which suprachiasmatic nucleus molecular clocks enable circadian behavior. Maejima T, Tsuno Y, Miyazaki S, Tsuneoka Y, Hasegawa E, Islam MT, Enoki R, Nakamura TJ, Mieda M. (2021) PNAS 118 (6): e2010168118 (https://doi.org/10.1073/pnas.2010168118)
バソプレシン/GABA神経は、神経伝達物質GABAを介してSCNの神経活動を制御し、動物が行動する時間帯を決める。SCN内のほぼ全ての神経細胞はGABAを持つ。遺伝子工学により、背内側に局在するバソプレシン神経からのみGABAの放出能力を損なわせても、時計遺伝子により駆動される分子時計は正常に時を刻む。しかしSCN内の神経細胞の電気的活動は、昼と夜のそれぞれにピークができる二峰性のリズムを生じ、これに伴いマウスの行動リズムも変化する。