138. 腸管神経細胞で発現して消化管の逆蠕動を制御する遺伝子

消化管は脳から独立した高次の神経ネット-ワーク(腸管神経系)を持ちます。この腸管神経系は消化管の正常な機能に不可欠な存在ですが、蠕動(消化管の運動)もその機能の一つです。我々は、そのメカニズムが謎であった逆蠕動すなわち肛門から口への蠕動を研究するため、ゼブラフィッシュを実験モデルとして生きた個体での解析を行いました。まず、心臓のペースメーカー細胞で発現しているhcn4遺伝子が消化管でも発現していることを見出し、免疫組織化学染色によってセロトニンを放出する神経であると同定しました。次に、セルモーションイメージングシステムを用いて、動きの“大きさ”以外に“方向”をパーラメーターとして捉え、蠕動を定量化して解析しました。さらにHCN4発現神経に光に反応して細胞を興奮させるタンパク質であるチャネルロドプシンを発現させ、その機能を光で操作し、生体内での役割を評価しました。その結果、腸管におけるHCN4発現神経が、逆蠕動における収縮回数を増加させ、特に短軸方向への平滑筋(輪走筋)の収縮を増強させることを見つけました。更に、伝播速度を制御する介在神経としての機能を有することも明らかとしました。

Gastrointestinal Neurons Expressing HCN4 Regulate Retrograde Peristalsis. Fujii, K.,  Nakajo, K., Egashira, Y., Yamamoto, Y., Kitada, K., Taniguchi, K., Kawai, M., Tomiyama, H., Kawakami, K., Uchiyama, K., Ono, F. (2020) Cell Reports 30:1-10.

ゼブラフィッシュの腸管の逆蠕動が、HCN4を発現する腸管内の神経で制御される。