128. 大脳皮質の回路形成から学習できる脳へのプロセス:全てに関わる発火順序依存性可塑性と抑制回路の成熟

ほ乳類の感覚皮質は、発達期に外界からの入力の有無に依存して神経回路を再編する能力(可塑性)を持ち、可塑性の特に強い時期を臨界期と呼び、環境に適した能力の獲得の神経基盤と考えられています。臨界期は生後の一時期に開始されますが、そのメカニズムについてはよくわかっていませんでした。我々は齧歯類の体性感覚野での一連の研究により、皮質の回路形成から臨界期開始にいたるメカニズムを説明する仮説的モデルを提唱するに至りました

大脳皮質への入力は視床→4層→2/3層...と続きますが、臨界期可塑性には4層-2/3層間のシナプスの、発火順序依存性可塑性(STDP)が鍵を握ると考えれています。これは4層→2/3層順の発火でシナプス強化、逆発火(2/3層→4層順)でシナプス弱化を起こします。本来、視床からの入力は4層→2/3層順の発火を起こすのでこのシナプスは強化されていきますが、入力を失うと発火の逆転が起こり(2/3層→4層順)、シナプス結合が弱化し、周辺からの入力に支配されることが臨界期可塑性の本質と想定されています。

我々は、4層→2/3層順の発火順序を制御する抑制回路が完成するのと同時にSTDPの性質が変化すること、それ以前は異なるタイプのSTDPによって、視床皮質投射の形成と成熟、4層-2/3層投射の形成が順に起こり、続いて4層-2/3層の発火順序制御回路の成熟とSTDPの変化が同時に起こるという一連の変化によって臨界期が始まると考えています。

1Fumitaka Kimura and Chiaki Itami. A hypiothetical model concerning how spike-timing-dependent plasticity contributes to neural circuit formation and initiation of the critical period in barrel cortex.  Journal of Neuroscience 39; 3784-3791, 2019.

 

Fig 日本語 v2 trim

 

出生直後から生後15日(P15)までの視床皮質投射、4層→2/3層投射の形成と臨界期開始に至るメカニズム。視床線維は将来の1~4層へ分化する皮質板細胞との間でLTP(長期増強)だけのSTDPを介して活動依存的にシナプス形成を進める(~P5)が、2/3層、4層の層分化が終わると、2/3層への過剰形成されたシナプスとはLTD(長期抑圧)だけのSTDPへと変化し(カンナビノイド受容体(CB1R)の発現による)過剰形成されたシナプスは刈り込まれる。一方、視床-4層シナプスではSTDPは失われ、視床-4層投射は安定化する。P7以降、4層細胞は2/3層細胞との間でLTPだけのSTDPを介して活動依存的に投射形成を始める(P7-14)。P12以降、視床-4層投射の中で、パルブアルブミン陽性GABA細胞との間では視床潜時が短縮化し、4層、2/3層興奮性細胞に早いfeedforward抑制をかけるようになると、視床からの入力は4層→2/3層順発火を確実に起こすようになり、同時に4層-2/3層細胞間のSTDPはLTP-LTD型のSTDPに変化し(4層終末でのCB1R発現による)、臨界期が始まる。