109. SLC12A5遺伝子の両アレル変異によるKCC2機能の低下は乳児焦点移動性部分発作と発達遅延を引き起こす

 脳機能は神経細胞が作る神経回路の活動により引き起こされますが、神経伝達には興奮性と抑制性があり、お互いに制御し合うことにより情報伝達が正常に行われています。カリウム-クロライド共役担体(KCC2)はクロライドイオンを細胞外にくみ出すトランスポーターで、細胞内クロライド濃度を低く保つことでγ-アミノ酪酸(GABA)やグリシンによる抑制性伝達を維持しています。KCC2が正常に機能しないと、細胞内クロライド濃度が高くなり、GABAやグリシンの作用は脱分極性/興奮性に変化します。今回、乳児焦点移動性部分発作を発症した患者とその家族の遺伝子の全エクソーム解析を行い、父母からそれぞれ異なった変異型KCC2遺伝子を受け継ぐ患者(複合ヘテロ接合体)4人が3家系で認められました。KCC2変異体の機能解析を行ったところ、患者はクロライドイオンを細胞外にくみ出す機能が強く低下した変異体とやや低下した変異体の2つを持つことがわかりました。KCC2変異体の細胞膜での発現分布および発現量には変化が認められませんでした。このことから、KCC2の変異が乳児焦点移動性部分発作の発症に関わる原因遺伝子であり、変異によりKCC2の機能が低下することでGABAやグリシンによる抑制力が低下し、神経回路の興奮性と抑制性のバランスが崩れることがてんかん発症に関わることが示唆されました(図)。野生型KCC2と変異体KCC2の2つを持つ両親はてんかんを発症しておらず、複合へテロ接合体でのみ発症することを実験的にはじめて証明しました。

 

Web用図(日本語)

Saitsu H, Watanabe M, Akita T ( equal contribution), Ohba C, Sugai K, Ong WP, Shiraishi H, Yuasa S, Matsumoto H, Beng KT, Saitoh S, Miyatake S, Nakashima M, Miyake N, Kato M, Fukuda A*, Matsumoto N*: Impaired neuronal KCC2 function by biallelic SLC12A5 mutations in migrating focal seizures and severe developmental delay. Scientific Reports, 6: 30072, 2016.

*corresponding author