108. 睡眠による知覚記憶の固定化の神経回路メカニズム

学習した情報は、学習後に脳内で情報処理されて記憶として固定化されます。記憶の固定化には局所回路レベルの過程と脳領域間の情報連絡によるシステムレベルの過程があると考えられています。しかし、後者のシステム固定化についてはメカニズムの解明が進んでいません。当研究室の過去の報告 (Manita et al., Neuron, 2015) において、大脳新皮質の第二運動野 (M2) と第一体性感覚野 (S1) 間の回路が触覚の知覚に関与することを解明しました。そこで、今回私たちは、M2やS1の神経活動と触覚情報に関する記憶の固定化との関係を調べました。M2やS1の神経活動を記録すると触覚学習時に活性化した神経細胞がノンレム睡眠時において再活性化していました。そして、M2からS1へ睡眠徐波の流れがあることが分かりました (図A)。そこでノンレム睡眠時にM2からS1への回路を光を用いて抑制すると、S1における記憶再活性化が阻害され、記憶成績が低下しました。反対に、M2とS1のノンレム睡眠時の情報連絡を強めるために、M2とS1を同期刺激すると記憶を保持している期間が長くなりました (図B)。また、断眠すると記憶成績が低下しますが、同期刺激を断眠中のマウスに適用すると、通常の睡眠をとったマウスに比べても記憶の保持期間が長くなりました。大脳新皮質は臨床的にも経頭蓋磁気刺激等を用いて非侵襲的に刺激できるため、今回用いた刺激プロトコールを臨床用に改良することで、記憶障害や睡眠障害の治療に応用できると期待されます。

Top-down cortical input during NREM sleep consolidates perceptual memory. Miyamoto D, Hirai D, Fung CCA, Inutsuka A, Odagawa M, Suzuki T, Boehringer R, Adaikkan C, Matsubara C, Matsuki N, Fukai T, McHugh TJ, Yamanaka A, Murayama M. Science, 352: 1315-1318, 2016.

 

図

(A) ノンレム睡眠時の睡眠徐波 (0.5-4 Hz) は二次運動皮質 (M2) から一次体性感覚皮質 (S1) の方向に流れる。(B) M2とS1の250 ms周期 (2 Hz) での同期刺激。