103. 血管内皮バリアー障害の初期事象の解明:細胞辺縁部におけるミオシン軽鎖2リン酸化とアクチン線維束形成の特異的役割

血管内皮細胞のバリアー機能障害は様々な血管病の初期病態形成に重要な役割を果たすことが知られています。トロンビンは強力なバリアー障害因子の一つであり、ミオシン軽鎖(MLC)リン酸化とアクチンストレスファイバー形成を促すことによってバリアー障害を引き起こすとされてきました。本研究では、経内皮細胞電気抵抗測定、Phos-tag SDS PAGE法によるリン酸化定量解析、蛍光染色、MLCリン酸化部位変異体の機能解析を行い、トロンビンが引き起こす内皮バリアー障害の初期において、細胞辺縁部におけるMLCの2リン酸化とアクチン線維束形成が重要な役割を果たすことを見出しました。この発見は、バリアー障害においてMLCの1リン酸化と2リン酸化が時間的・空間的に異なる関与を果たすことを明らかにした点(図a)、ストレスファイバー形成に先立って細胞辺縁部にアクチン線維束が形成されることを見出した点で新しいものです。重要な点として、このアクチン線維束形成がMLC 2リン酸化と時間的・空間的に一致することを明らかにしています。さらに、細胞辺縁部のアクチン線維束が形成されるか、ストレスファイバーが形成されるかが細胞間接着の成熟度によって制御されることも明らかにしました。本研究の成果から、トロンビン刺激を受けると、まず細胞辺縁部にMLC 2リン酸化とアクチン線維束形成が生じ、求心性に細胞収縮が起こり、その結果として細胞間接着装置に間隙が生じると、透過性が亢進するとともに、細胞辺縁部のアクチン線維はストレスファイバーへと再編成され、透過性亢進の持続に関わることが示唆されます(図b)。本研究により、従来の研究で見落とされていた内皮バリアー障害の初期事象が明らかとなりました。

Mayumi Hirano, Katsuya Hirano*. Myosin di-phosphorylation and peripheral actin bundle formation as initial events during endothelial barrier disruption.
Sci Rep 6: 20989, 2016 doi: 10.1038/srep20989 (http://www.nature.com/articles/srep20989)
*Corresponding authors.
利益相反なし

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