トランスファーRNA(tRNA)は翻訳を仲介する中心的な小分子RNAである。tRNAには様々な転写後修飾が存在するが、哺乳動物においてtRNA修飾を行う酵素及び修飾の生理意義があまり知られていない。我々は、ミトコンドリアtRNA修飾を行う酵素としてCdk5rap1を発見し、またCdk5rap1が仲介する生理作用を明らかにした。Cdk5rap1はミトコンドリアDNAがコードする4つtRNA(mt-tRNATrp, mt-tRNATyr, mt-tRNAPhe及びmt-tRNASer(UCN)のアンチコドン近傍37位のアデノシンをチオメチル化(ms2)する。チオメチル化修飾は、tRNAとmRNAの結合を安定化することで、ミトコンドリアにおける効率的な翻訳に重要である。Cdk5rap1欠損マウスでは、ミトコンドリアタンパク翻訳が低下し、好気的呼吸が障害されていた。その結果、異常なミトコンドリアが蓄積し、エネルギー需要の多い組織である骨格筋及び心筋の機能が低下した。さらに、ミトコンドリア脳筋症患者(MELAS)においてCdk5rap1の活性が低下したことで、ミトコンドリアtRNAのチオメチル化が低下していた。これらの結果から、Cdk5rap1は生体のエネルギー代謝に重要であり、その破綻がミトコンドリア病の発症につながることが明らかになった。
Wei, F.Y. et al. Cdk5rap1-mediated 2-methylthio modification of mitochondrial tRNAs governs protein translation and contribute to myopathy in mice and humans. Cell Metab. 21: 428-442 (2015).
Cdk5rap1はミトコンドリアDNAに由来する4つのtRNAをチオメチル化(ms2)する。チオメチル化修飾されたtRNAは対応するコドンを効率よく翻訳することで、呼吸鎖タンパクの機能維持に必要である。Cdk5rap1欠損マウス及びミトコンドリア脳筋症患者において、チオメチル化修飾の低下がミトコンドリアにおけるタンパク翻訳を劇的に低下させることでミトコンドリア機能障害を引き起こす。