pH依存性K+チャネルのKcsAは、最も構造・機能解析が進んだチャネルの一つです。結晶構造解析より、KcsAは中性から酸性に変えるとゲートを開いた構造をとることが明らかになっています。しかし結晶構造は膜から切り離された状態で得られたものであり、実際にチャネルがはたらく膜中での状態を表しているとは言えません。今回我々は、膜中でKcsAが開閉する様子を原子間力顕微鏡(AFM)で直接観察しました。中性pHでの閉状態では細胞内側に数nm突出した構造が見えました。一方、チャネルが活性を示す酸性pHでは細胞内側の突出を短縮させながら活性化ゲートが開き、その周りに4量体サブユニットが取り囲む構造を捉えることに成功しました。さらに、ゲート開閉に伴ってチャネルが膜中で集合・離散することを発見しました。中性pHで閉じたKcsAチャネルは互いに集まり小集団を形成します。一方、酸性pHではゲートを開いたチャネルがバラバラに散らばっていました。高速AFM観察により、この集合・離散は可逆的で、数分以内に起こることもわかりました。さらに詳しく観察すると酸性においても一部のKcsAは集合し、ゲートが開いていないことを見つけました。これらの結果より、中性で集合して閉じたチャネルは酸性になっても集合した中間状態をとり、さらに一個一個のチャネルに散らばってはじめてゲートを開く、ということがわかりました。
今回発見したKcsAの開閉と連動した膜二次元平面上での集合・離散は、全く予期していなかったダイナミックな振る舞いです。イオンチャネルの働きがチャネル単独のゲート開閉現象のみならず、膜上での集団的振る舞いも寄与していることを初めて明らかにしたものであり、チャネルの生理的な機能を考える上で重要な知見をもたらすと考えています。(Sumino, A., Yamamoto, D., Iwamoto, M., Dewa, T., Oiki, S.: Gating-Associated Clustering–Dispersion Dynamics of the KcsA Potassium Channel in a Lipid Membrane. J. Phys. Chem. Lett. 5: 578–584,2014; Sumino, A., Sumikama, T., Iwamoto, M., Dewa, T., and Oiki, S.: The Open Gate Structure of the Membrane-Embedded KcsA Potassium Channel Viewed From the Cytoplasmic Side. Scientific Reports 3: 1063, 2013.)
図:pH依存性K+チャネルKcsAの開閉と連動した集合・離散
中性で閉じたKcsAチャネルは互いに集合している(左;緑点線)。集団の中に個別のチャネルが円形に見える。酸性になると、集団内でわずかにチャネルの背丈が短縮した中間状態を経て(中央;青点線)、離散してゲートを開く(右;黄点線)。KcsAチャネルは4つのサブユニットが会合したものであり、孤立した正方形のチャネル中心に穴が見える(孤立チャネル像の平均像と結晶構造;右上挿入図)。