日本生理学雑誌 第71巻 5号

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表紙の説明

第85回日本生理学会大会(東京)
演題番号: 1P-F-028
演題: 「lNaチャネル機能改変作用におけるシガトキシンアナログ9員環構造の重要性」
演者: 山岡薫1  井上将行2  平間正博3  宮崎圭輔3  瀬山一正4
所属: 1広島国際大学保健医療学部  2東京大大学院薬学系研究科  3東北大大学院理学研究科  4広島女学院大生活科学部

シガトキシン類は渦鞭毛藻という藻類を食べた亜熱帯の魚に蓄積する毒である. それをヒトが食べしばしばシガテラという中毒を来す. 痛覚過敏や自律神経症状を引き起こし, ひどい場合には症状が数年にわたるという. 先 に我々は電位依存性Naチャネルに選択的に結合し, Naチャネルの機能を多彩に修飾することを 全合成した CTX3Cを用いて示した. シガトキシンの構造は図 ( A) にもあるように 13個のエーテル環が梯子状に連なった巨大分子で長さは 3nm にも達する. この大きな構造のどの部分が Naチャネルの機能修飾に重大な作用を及ぼすかについて 種々の CTX 同族体やアナログを作成した. すなわち CTX3CのM環にOH基を付与し 51-OH-CTX3C を作成, 9員環であった51-OH-CTX3CのF環を8員環 ( F8-51-OH-CTX3C) および10員環 ( F10-51-OH-CTX3C) に置換した. 8員環にすると F環を境に直線的構造が屈曲することが示唆された(図A over lapped). 51-OH-CTX3Cは 低濃度 (0.1μM) の投与で脱分極させずとも, 向きNa電流が惹起される. この作用は痛みを伝えるNav1.8において特に著しい (B左図およびC図). このことはシガトキシンが痛覚過敏や異痛症を引き起こすことをよく説明する. この効果は F環を8および10員環にすることでほぼ完全に失われる (注: F8 F10グループは9員環グループに対して100倍濃度を投与している). すなわち 51-OH-CTX3Cは F環を中心に立体構造がほんの少しでも変化があることによってたとえば A環の位置が大きくずれその作用に大きく影響を与えることが考えられる. 対照的に M環にOH基があるか無いかはシガトキシンの機能にそれほど影響しないことがわかった. A環側とNaチャネルの相互作用がシガトキシンの機能発揮に重要な役割を果たすとしたら シガトキシンの直線的な構造はそれらの配置を適正にすることに寄与するのであろう.