男女共同参画委員会・若手の会共催企画シンポジウム報告

生理学会男女共同参画委員会は、男女共同参画の進め方を広く生理学会会員とともに考えていくために、シンポジウムを企画した。昨年度の大会では「男女共同参画の過去、現在、そして未来に向けて」の第一弾として、研究者の世界における男女共同参画の過去および現在について知るために、「女性研究者のルーツ」と「女性研究者を女房にもって」の2つのテーマで初めてシンポジウムを主催した。今年度は、同タイトルのシンポジウムの第2弾を「任期制と人材育成をめぐる最近の動向」のテーマで若手の会との共催で開催した(日時 平成18年3月29日(水)9:0011:00場所 前橋商工会議所)。

シンポジストは文部科学省科学技術・学術政策局基盤政策課課長補佐・仙波秀志氏、玉川大学学術研究所脳科学研究施設・松田哲也氏、大阪大学認知行動科学・内藤智之氏、立命館大学COE機構放射光生命科学研究センター・小田-望月紀子氏の4名。会場を埋めたたくさんの聴衆には女性のみならず、各年齢層の多くの男性もみられ、「男女共同参画」もさることながら、「任期制」についての関心の高さも感じられた。

仙波氏は「男女共同参画社会の実現に向けて」のタイトルで、平成18年3月に閣議決定された第3期科学技術基本計画を中心に、国としてどのように女性をはじめ、多様な人材の育成を推進しているかについて述べた。また、日本における女性研究者の現状として、全研究者中の比率は10%強であり、徐々に増加してきたものの欧米の25~30%に比べて遙かに低いことに触れた。アンケート調査の結果により、女性研究者の少ない理由として出産・育児、介護などにより研究を継続できないことが第一にあげられ、女性研究者比率の増加に向けて現行の対策や今後の取り組みについて述べた。さらに、大学や公的機関に求められることとして、研究と出産・育児の両立支援における行動計画を立てること、女性研究者の採用に関しては、組織ごとに女性の採用の数値目標を設定することなどをあげた。

 松田氏は「若手の研究者の現状と今後の提案」のタイトルで、ポスドク1万人支援計画などによりポスドクが増加し、その受け皿の不足の問題について述べた。現在、競争的資金・外部資金により採用されているポスドクは全体の46%で、彼らはそれぞれのプロジェクトが終了すると失業する可能性をはらんでおり、受け皿となりうる政策等を国が明確にすることを求めた。また、任期制の導入により、競争的意識が高まるメリットはあるものの、すべての研究者に対して施行するのは、指導的立場の場合には非効率的でありテニア制の導入などを提唱した。優れた研究者の輩出には、充実した教育システム、資金、そしてすぐれた研究施設の3つが不可欠であることを述べた。 

内藤氏は「任期付きポジションを経験して思うこと-今後の課題について」と題して話した。自分のこれまでの任期付きポジションの経験を紹介し、それに基づいて、任期制のメリットとして、よい環境で研究に専念できることをあげた一方、デメリットとして、経済的に不安定であることや、将来の予定が立てられないことなどをあげた。今後の任期付きポジションに求めることとして、より有利な研究環境を確保すること、期間が極端に短くないこと、生涯賃金において不利でないこと、年齢上限の緩和、ポジションの増加、研究環境の多様化、さらに女性とともに男性の育児休暇の取得を推奨することなどを提唱した。  

小田-望月氏は数多くの任期付きポジションの経験者として女性の立場から「任期制時代を生きる」と題して話した。これまで就いたポジションとそれぞれにおける自分の対応について述べ、その経験から、結婚、出産、育児など女性のライフサイクルとそれによる研究生活への多くのチャレンジ、さらにそれらを乗り切るコツなどを話した。任期制のメリットとして、雑用が少なく研究に専念できること、分野が広がること、人的交流が増え、刺激的であること、組織が硬直化しないことなどをあげ、逆にデメリットとして、テーマの継続性が保てないこと、短期間で結果が出るテーマになりがちなこと、次のポジション探しに時間を費やされることなどをあげた。今後改善を求めることとして、女性特有の課題に配慮した任期制の体制づくり、特に年齢制限の緩和・廃止などが、男女共同参画の立場から重要であることを述べた。さらに、任期制に付きのものの評価制度についても触れ、外部委員による評価について解説した。  

本シンポジウムにより任期制の現状を知ることができ、また今後の課題が浮き彫りにされた。また、文部科学省科学技術・学術政策局基盤政策課の方にも参加して頂いたことにより、国の政策についての情報を得ることができただけでなく、研究者の生の声や要求を文科省側に伝えるいい機会になった。

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