研究倫理委員会報告(2005.12.7)

2005年 12月 7日

「動物の愛護及び管理に関する法律」(平成11年12月改正,平成12年12月1日施行)が2005年5月に通常国会で可決され(平成17年法律第68号)、2005年6月22日に公布された。この改正により、3R(reduction, replacement, refinement)のすべてが明文化された(改正法の第41条)。動物実験を行う研究者のみでなく、常識的な保護団体からも支持された改正であり、日本の実験動物の保護・愛護についての高い水準を反映したもので、誤解に基づいた不条理な批判を国際社会から浴びることを防げると考えられる。これに伴って施行規則ならびに「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」(昭和55年3月27日総理府告示第6号,平成14年5月28日一部改正)などの改定が必要であり、環境大臣から中央環境審議会に諮問され、その結果をまって2006年に改正法が施行される予定である。なお、諮問の結果は2006年に順次、パブリックコメントにかけられるので、その際会員各位におかれては、環境省のホームページに注意され、必要があればコメントをお願いしたい。文部科学省サイドでは、これに対応し、科学技術・学術審議会の研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会に検討部会が設けられ、実験動物の取り扱いについての統一ガイドライン制定等について検討が進められている。学術会議や関係学会等のヒアリングが行われ、生理学会も神経科学学会と共同で意見を述べた。この意見については、時間の関係で、会長と協議の上、研究倫理委員会が神経科学学会と協議を行いまとめたもので、最後に添付した。
ペットによる国際的な感染症の伝播を防止するために、厚生労働省は法改正を行い、動物の輸入にかかわる検疫を強化した。このために、国際的な遺伝子改変動物の連携等に大きな支障が生ずることが憂慮され、関連13学会ならびに全国医学部長会議など陳情を行った。実験動物は健康管理が厳重に行われているため特例措置を求めたものである。検疫条件等に若干の特例が設けられたが、規制措置全体としては施行されているので、動物の輸入にあたっては、関連業者とよく相談する必要がある。
ペットなどとして輸入された動物の自然界での繁殖を防ぐために、環境省は特定外来動物の指定を行い、指定された動物については、飼育や購入について許可が必要となった(外来生物法)。現在、特に問題となる動物はないと思われるが、ガマガエル(Bufoの類)については、Bufo marinusのみが特定外来動物で、その他のBufo類が「未特定動物」としての扱いであり、今後問題となる可能性がある。詳細は環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/nature/intro/6tetuzuki.html)を参照されたい。
群馬大会でも「研究倫理委員会シンポジウム」を行う。シンポジストは前の学術会議動物実験研連委員長の玉置憲一先生(「動物実験ガイドラインと自主管理の現状」:東海大学名誉教授、財団法人実験動物中央研究所副所長)と福島県立医大(遺伝研教授併任)の小林和人先生(実験動物の輸入規制について)にお願いした。是非、ご参加をお願いしたい。

(板東 武彦)

添付資料(文部科学省ヒアリング資料)

動物実験倫理に関する日本生理学会・日本神経科学学会の意見

平成17年10月 4日

今回(2005年)の動物愛護管理法の改正で取り入れられた「3Rの理念」、すなわち、実験動物の数をできるだけ少なくし(reduction)、その苦痛を減らすこと(refinement)、および可能な限り代替法を取り入れること(replacement)について、両学会ともに異論はない。既に両学会ではそれぞれ独自に実験指針を定めており(参考資料)、研究者は日頃より、3Rの原則を遵守し、文部科学省の局長通達に基づいて、大学等の研究機関に動物実験委員会を設置し、研究機関所属の研究者から研究課題申請を受け、許可を与えるシステムを構築し、自主規制のもとに研究を実施してきた。委員会による承認がなければ動物実験施設は使えず、また、承認のない研究は学術雑誌に掲載されない上、学会で発表することもできず、このシステムは有効に機能している。
米国の場合は、Animal Welfare Actは農務省の所管、Health Research Extension Actは保健福祉省の所管とされ、両者の調整は省庁間調整委員会で行われている。統一ガイドラインにより研究機関が自主規制を行い、その結果の検証を保健福祉省公衆衛生総局の公認下でAAALACと呼ばれる団体が行っている。しかし、日本では研究機関や学会が各々ガイドラインを設けており、いずれも国際医学団体協議会(CIOMS)のガイドラインなどに準じた類似なものであるが、全国的な統一ガイドラインはなかった。今後統一ガイドラインを定め、これに準拠して、研究機関が自主規制を行うことは必要であると考えている。他方、この自主規制が確実に実行されていることを担保する何らかのシステムを構築することも、重要であると考える。第19期日本学術会議第7部は動物実験に関する社会的理解を促進するための提言を研究者にむけて行い、その中で、動物実験の統一ガイドラインを制定し、審査検証のための第三者評価システムを設けることを提案しているが、我々の学会としてもこの提言に異存はない。ただし、統一ガイドラインの制定、この第三者評価システムの構築に当たっては以下の要件を満たす必要があると考える。
・統一ガイドラインについて
1.ガイドラインは、多様な生命科学分野すべてに適用するものであることを考慮して、文部科学省など、動物実験を所轄する国の行政機関が定める「基本指針」と動物実験関係者が定める「詳細指針」の2部構成とすることが望ましい。特に後者は学術会議実験動物研連が主体となって作業を進めることが望ましいと考える。
・第三者評価システムについて

  1. 各研究実施機関が動物実験を行うのにふさわしい設備と制度を整えているかどうかを検証・評価するシステムであること。
  2. 実験内容の審査はすでに各研究施設の委員会で行われていること、企業には企業秘密があり、大学でも発表前の成果はノウハウを含めて知的資産として守られるべきであることから、実験内容の審査自体はこの評価システムの業務にはふさわしくない。
  3. 自主規制の審査は文部科学省、厚生労働省、農林水産省等によって後援される法人のような組織が行うことが適切であると思われる。
  4. 審査検証は相互審査を原則とし、経費は旅費等の実費として、抑制する必要がある。
  5. 委員は、高度の専門性を維持することが必要なため、動物実験に豊富な経験を有する医学・生物学研究の専門家を中心とし、実験動物関係者、法律関係者を加えることが適切であると考える。以上のように、日本の今後の医学・生理学・神経科学のさらなる発展のためには、統一ガイドラインの制定と第三者評価システムの設置は必要であると考える。

この枠組みを基礎とし、高水準の医学・生命科学研究を継続することによって、国民の健康と福祉を増進するとともに、日本の生命科学関連産業の国際的競争力を維持できると考えている。

日本生理学会 研究倫理委員会委員長 板東 武彦
日本神経科学学会 動物実験・倫理委員会委員長 伊佐 正