風邪の引き初めに“悪寒”を感じて毛布にくるまったり、暖房をつけたりしたという経験のある方は多いのではないでしょうか。これは発熱(体温上昇)を促す、暖かさを求める行動(暑熱欲求行動)ですが、悪寒と暑熱欲求行動がどのような脳内の仕組みで生じるのかはわかっていませんでした。
今回私たちは、ラットを用いた研究により、感染時に産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)が、脳内の橋(きょう)と呼ばれる領域にある外側腕傍核(がいそくわんぼうかく)の神経細胞に、EP3受容体を介して作用することで暑熱欲求行動が起こり、体温が上昇することを発見しました。一方、PGE2のこの作用は、自律性の発熱反応(褐色脂肪熱産生、頻脈など)を起こしませんでした。EP3受容体を発現する外側腕傍核の神経細胞を調べると、不快情動の中枢である扁桃体中心核(へんとうたいちゅうしんかく)へ、皮膚からの寒さの感覚情報を伝達することが明らかになりました。この寒冷感覚の伝達をPGE2が増強することが不快感を引き起こし、暑熱欲求行動を駆動すると考えられます。
以上の成果は、感染時に産生されるPGE2が外側腕傍核の神経細胞に作用し、「悪寒」という温度情動を発生させることで、体温を上昇させる本能行動を引き起こすという、感染防御と情動の新しい接点を提示するものです。
論文タイトル The pyrogenic mediator prostaglandin E2 elicits warmth seeking via EP3 receptor-expressing parabrachial neurons: a potential mechanism of chills.
全著者名Takaki Yahiro, Yoshiko Nakamura, and Kazuhiro Nakamura
雑誌名The Journal of Physiology, 2026
DOI 10.1113/JP289466

<図の説明>
皮膚の温度受容器(センサー)で感知した寒さの感覚(冷覚)は脊髄を通って、外側腕傍核から扁桃体中心核へ伝達される。PGE2は外側腕傍核のEP3受容体発現神経細胞に作用して扁桃体中心核への冷覚の伝達を増強し、悪寒と暑熱欲求行動を起こすと考えられる。なお、自律性の発熱反応は、PGE2が体温調節中枢である視索前野に作用することで引き起こされることが知られている。BioRenderで作成。
























