本研究では、低侵襲での生体組織の観察が可能な2光子顕微鏡を用い、頭部固定装置・特注コンタクトレンズ・深部観察が可能な対物レンズを組み合わせることにより、特殊な補償光学装置を必要とせず、簡便かつ非侵襲的に生体網膜の細胞や血管をリアルタイム観察できる新たな技術を開発しました。本手法を用いることで、糖尿病モデルマウスにおいて、従来の共焦点顕微鏡による静的解析では捉えられなかった、網膜に常在する免疫細胞ミクログリアの生体内挙動をリアルタイムに可視化することに成功しました。健常マウスではミクログリア突起が緩やかに監視範囲を移動するのに対し、糖尿病マウスでは突起運動が著しく活発化し、監視活動の過剰亢進がみられることを明らかにしました。さらに、糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬リラグルチドを投与すると、この異常なミクログリア活動が正常化することを見出しました。今後、本手法を多様な眼疾患モデルへ応用することで、病態解明や治療法開発に発展することが期待されます。加えて、網膜は直接観察が可能な数少ない中枢神経組織であることから、本研究の成果は、低侵襲的に脳の情報処理機構や全身疾患の神経基盤を解明する新しい研究・医療の展開につながる可能性があります。
Transpupillary in vivo two-photon imaging reveals enhanced surveillance of retinal microglia in diabetic mice.
Sotani N, Kusuhara S, Nishisho R, Kuno H, Shima H, Haruwaka K, Mori Y, Kishi M, Furuyashiki T, Kobayashi K, Wake H, Takumi T, Nakamura M, and Tachibana Y.
Proc Natl Acad Sci U S A. 122(41): e2426241122. 2025.
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2426241122
doi: 10.1073/pnas.2426241122.

<図の説明>
生きた状態での網膜を観察するため、マウス眼球にフィットした特注コンタクトレンズ、網膜の奥まで鮮明に観察できる特殊な対物レンズを組み合わせることで、2光子顕微鏡を用いた免疫細胞ミクログリアの可視化に成功。健常マウスの網膜では、ミクログリアは突起をゆっくりと動かし、一定の範囲を落ち着いて監視しているが、糖尿病マウスでは、この突起の動きが活発に動き回り、監視活動が過剰に亢進する。糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬リラグルチドを投与すると、過剰に活発化していたミクログリアの突起の動きが沈静化し、健常マウスと同程度の活動レベルに戻ることが確認された。
























