赤ちゃんはよく泣くのが普通です。しかし、あまりにも泣きやまなかったり、夜泣きなどで寝付かないと、親にとってはストレスになり、稀に虐待につながることもあります。赤ちゃんは「輸送反応」によって運ばれているときにおとなしくなることがわかっていましたが、これまで短時間の効果しか調べられておらず、他の育児行動との比較もありませんでした。
今回我々は、赤ちゃんの心電図を計測しながら母親に抱っこして歩く、座る、ベッドに置く、ベビーカーに乗せて動かす、といった育児行動を行ってもらいその効果と心拍の推移を調べました。その結果、赤ちゃんを泣きやませるには輸送が効果的であること、泣いている赤ちゃんは5分間の抱っこ歩きによって泣きやみ、昼間でも約半数が寝付くことを見いだしました。また、抱っこで眠るよりもベッドに置かれている方が深く眠れていることもわかりました。しかし、抱っこで眠った赤ちゃんをベッドに置く際に起きてしまうことがあります。背中が着いたときに起きるように見えることから日本では「背中スイッチ」と言われますが、実際には背中の着地ではなく、親から体が離れるタイミングで赤ちゃんの心拍が速くなりはじめ、目覚めやすくなっていることがわかりました。さらに、眠った赤ちゃんを置いても寝続けられるようにするには、置くスピードや体を置く順序は関係なく、赤ちゃんが眠ってから5-8分程度待って睡眠状態が安定してから置くと目覚めにくくなることがわかりました。
今後、これらの方法で実際の夜泣き等にも対応できるか、母親ではなく父親や祖父母が行ったときの効果等も検証していく予定です。
論文タイトル A method to soothe and promote sleep in crying infants utilizing the transport response. 全著者名Ohmura N, Okuma L, Truzzi A, Shinozuka A, Saito A, Yokota S, Bizzego A, Miyazawa E, Shimizu M, Esposito G, Kuroda KO. 雑誌名Current Biology, 32: 1-9, 2022.
<図の説明>
(上)泣いている赤ちゃんを5分間抱っこして歩くと泣きやみ眠りやすくなる。赤ちゃんが眠ってから5-8分程度待ってから置くと目覚めにくい。
(下)眠っている赤ちゃんをベッドに置く時、体が離れ始めると急激に心拍間隔が小さくなり(心拍が速くなり)、覚醒し始める。体の着地時にはあまり変わらず、母親が完全に離れると心拍間隔が大きくなる(心拍がゆっくりになる)。