130. 小脳の急性炎症による『心のはたらき』の不調とその回復

脳内への微生物感染が、どのように神経細胞の生理学的特性を変えて、動物の精神行動に関わるのかを調べるために、私たちは微生物の内毒素であるLPS(リポ多糖)やグラム陰性菌死菌を小脳切片に投与しました。微小ガラス電極を使った記録法を用いると、小脳プルキンエ細胞の興奮性可塑性とよばれる神経細胞の持続的な活動電位の発火頻度の増大現象が観察されました。樹状突起の興奮性が増大することも分かりました。LPSやグラム陰性菌死菌は脳内の免疫細胞であるミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子(TNF)-aの放出を介して、プルキンエ細胞で興奮性可塑性が誘導されて過興奮になることがわかりました。今度は、生体ラットの小脳にLPSやグラム陰性菌死菌を注入して急性脳炎を起こすと、動物のやる気や好奇心、社交性を示す行動が有意に減退して、鬱様や自閉症様の行動異常を示しました。このような小脳神経細胞の過興奮によって、急性炎症時に動物の精神行動が減退すると考えられました。さらに、コロニー刺激因子受容体の抑制剤投与によって、過剰な免疫を抑制することに依って、小脳炎症による動物行動の異常を回復させることに成功しました。

Microglia-triggered plasticity of intrinsic excitability modulates psychomotor behaviors in acute cerebellar inflammation. Yamamoto M*, Kim M*, Imai H*, Itakura Y and Ohtsuki G. Cell Reports(2019)vol 28, pp 2923–2938, 2019.Cover article of the issue. *equal contribution. corresponding author. doi.org/10.1016/j.celrep.2019.07.078

名称未設定PNG.001 本研究では小脳におこる感染症に注目し、小脳炎症時に神経活動が過度に興奮することを見出しました。ミクログリアから放出される炎症性サイトカインが、この過興奮の引き金であることも分かりました。また、小脳で炎症が起きると、動物の社交性や好奇心・やる気などが低下し、鬱様症状を示しました。過度な免疫活性化を抑えることで、小脳炎症時におこる精神行動の異常を回復させることができました。本論文は掲載号のカバーアーティクルとして採択されました。