84回日本生理学会大会教育委員会シンポジウムモデル講義のアンケート評価

第84回日本生理学会大会教育委員会シンポジウムモデル講義のアンケート評価

日本生理学会教育委員会 第84回日本生理学会大会第2日目である3月21日13時15分~16時15分の3時間にわたり,教育委員会シンポジウム”生理学モデル講義”が行われた。この試みは,第82回大会(仙台)に始まり,第83回大会(前橋)に続き、今回は3回目である。会場で学生用として用意した配付資料は,第1回100部,第2回200部,そして今回は250部が捌けたことから推測するに,今回の参加者は250名以上だったと思われ,会場に立見が出るほどの盛況であった。大会参加者が約1500名であったとすると、約1/6の参加者がこのモデル講義に参加したことになり、生理学会会員諸氏の生理学教育への関心が非常に高いと言える。 教育委員会がモデル講義を大会で実施するまでの教育プログラムはシンポジウムが1つあるだけで、その会場に参加された会員数はごく少数に限定され、学会の教育に対する姿勢が積極的でない印象があった。しかし、日本生理学会としての教育重視の姿勢は、将来計画委員会が設置された時から認識されていた(1)が、実際の活動に反映されるまでには至らなかった。平成13年3月のいわゆるモデルコアカリキュラムの発表(2)以来、全国全ての大学で医学教育改革が進み、生理学者が研究だけで良しとされる時代ではなくなった。そのような状況がモデル講義実施の原動力になり、また学会としての教育能力向上への貢献を達成する一手段として開始されたのである。特に授業評価が恒常的に実施されるようになっており、その際自分の専門分野でないところの講義を魅力的にする術をモデル講義を通じて会員に会得していただき、学内での評価を高めることも目的とした。例えば、ある事象の発見にまつわる話、従来の知見と反対の定説が確立された根拠のデータ、研究者の系譜など普通の生理学の教科書に書かれてないことをモデル講義で聞き、それを応用することにより、専門外のところの講義も結構いけるという評価が学生から上がって来ることを期待している。一言で言うと、専門分野以外での教育力アップを図ることである。 今回のモデル講義の会場に来られた会員全てにアンケート用紙を配布し、94人から回収した。平成19年度から助教という名目の職制が始まり,助教の講義回数が増加すると思われる。今回のアンケートでは,職位と講義回数の関連を調べる目的で,職位を問うたところ、教授は15名,助教授・講師は19名,助手は17名,大学院生・学部学生は15名,ポスドク・研究補助員は4名で、記載なしが24名あった。従って、職位を問わず生理学教育に関係する全ての会員からアンケートが回収されたと言える。 以下,アンケート項目毎に結果をまとめた。

1.今回のモデル講義が今後の講義に与える効果について問うたところ

参考になった(80)という反応が圧倒的に多かった。どちらとも言えない(8),参考にならなかった(1)という少数意見もみられた。従ってモデル講義は会員に有益な影響を与えたと結論出来よう。

2.参考になった事項について問うたところ

講義内容(47)と講義方法(55)に集中していた。その中身の例を紹介すると、○板書,やりとりの講義における充実感が特に印象に残りました。ただ,板書にしてもパワーポイントにしても語りかけるような聞き手のペースを尊重してくれるようなスタイルの方が心地良く耳を傾けることができました。 ○講義の流れが一貫しており,学生の興味がとぎれないことがよく分かった。 ○学生に当てて間違えても,それで怒らず,うまく誘導していったのがよかったです。○時間のとり方、講義の進め方,歴史(背景)について。 ○板書でも印象に残る講義方法。 ○講義に対する姿勢、講師の人間性。などの意見があった。また個別の講義に関して厳しい評価もあったが,同時に同じ講義に対して高評価する意見もあり,講義の多様性および聴き手の感じ方・価値判断の多様性が反映されていると思われる。

3.配布した講義資料はご自分の講義に役立つかどうかを尋ねたところ

役立つと思う(68),どちらとも言えない(19),思わない(2)という分布であり、多くの会員が講義だけでなく資料も役立っていると感じている。

4.前回(前橋)または前々回(仙台)でのモデル講義参加を尋ねたところ

参加した(36),参加しなかった(53)という分布で、リピーターが少ないと解釈するのか,新規参加者が多いと解釈するのか?あるいは,リピーターのアンケート提出率が低いのか?更なる分析が必要と思われる。

5.前回および前々回のモデル講義が生理学会員用にHPで公開されていることについて聞くと

知っている(28),知らなかった(61)という反応であった。このHP閲覧にはIDとパスワードが必要であるが、利用を生理学会会員に限定するためメール登録会員にIDとパスワードを知らせることにしている。内容は、会場での録画であり、その際使用された講義資料も同時に公開されている。

6.今回も以前と同様にモデル講義を生理学会員のみにHPで公開することの意義を問うた所

意義があると思う(75),どちらとも言えない(11),思わない(1)という反応であった。教育委員会として従来と同様に公開するので、是非利用してください。

7.来年度のモデル講義で聴いてみたい先生や分野について尋ねたところ

「出来るだけ全ての分野,特に講義が難しい分野をやって欲しい。特に学生の興味が失われやすい分野もお願いします」、「生理学のほぼ全分野にわたる講義をリクエストする」という意見もあり、モデル講義実施の意義が会員アンケートにも表れていると言えよう。また、昨今の教育改革の事情を反映して、「コアカリキュラムの深さをそろそろ生理学会でも考えていただきたい。特に臨床との関連性を緊密に提示してほしい」、「分野ではなく,方法論をもっと吟味した演者を立てるべき」という希望も寄せられている。今後の演者依頼の参考にする予定です。

8.生理学会教育委員会に期待する事項について尋ねたところ

「生理学実習方法や教育方法の共有化(57)」が最も多く、会員諸先生のニーズがここにあると思われるので、委員会でも積極的に検討していくことにします。また「具体的な生理学の教育方法の開発(35)」と「医学教育における生理学の意義を高める(36)」方策も同時に検討する必要があると委員会として認識しました。モデル・コア・カリキュラムへの提言(20)もかなりあり、今回一部改定が行われたモデル・コア・カリキュラムに対して学会としての提言を纏める必要があると思われる。これは大変大きな問題であり、「内容」のみならず、委員会としてたたき台を作成して会員に意見を求め最終案とするような「手続論」も必要であると思っている。教育委員会としては、取り敢えず原案作成の準備作業に入っていることを報告しておきます。

9.来年度のご自身の1年間の講義予定回数について尋ねたところ

図のような結果になった。 pict20070521155510 回答された会員の職位は教授14名,助教授・講師18名,助手16名,その他・不明16名であった。PBLテュトーリアルを導入している大学が64校になっている現状から講義回数が減少していると予想されたが,結果は講義回数がかなり多いことが分かった。また職位が助手、助教授、教授と上がるにつれ講義回数が増えており、その傾向は所属部局(自校でも所属部局以外は除外している)の講義のみならず、所属部局外でも同様であった。各職位とも回答者の80%程度が所属部局以外での講義を担当しており,特に助手は所属部局以外の専門学校などでの講義比率が高かった。

10.平成19年4月から法律改正による助教制度の施行に伴い,現在の助手の講義回数の増減を聞いたところ

増加する(19),変化しない(44),減少する(1)という分布であった。変化しないと言うのが大半であったが、その理由として「MDの助手については,教授の監督の下という形でもともと講義していた」のであり、MD以外については今後増える可能性があろう。

11.今回のモデル講義で板書スタイルをご披露頂いたので、会員に「ご自身の講義で板書とPCの比率」を聞いたところ

図のような反応であった。 pict20070521155750 職位によって割合が異なるものの、まだかなり板書が行われていて、全職位総合の板書の比率は48%であった。板書の長所として,“間”,学生がフォローできる程度の早さ”,“学生との距離が短くなる”などがあがっていた。 職位によって割合が異なるものの、まだかなり板書が行われていて、全職位総合の板書の比率はであった。板書の長所として,“間”,学生がフォローできる程度の早さ”,“学生との距離が短くなる”などがあがっていた。 これに対して、パワーポイントの講義は,①紙芝居的なストーリーとして展開しやすい内容のとき②画像やアニメーションが内容の理解に役立つ場合に役に立つ,との意見を寄せられた。

12.その他広範に意見を求めたところ

次のようなのが複数あった。
  1. モデル講義に参加する意義:「今や生理学会に参加するひとつの大きな目的は生理学教育に関することです(研究に関しては他の学会の方が有意義)。生理学講義資格認定制度のようなものに発展さしてもよいかも」。「モデル講義が年々充実したプログラムになっているのがとてもたくましく感じます。特に,MD以外の教員が多くなる実情とコア・カリキュラムでMD教員の必要性が増す状態の中で,本シンポジウムはMD以外のものに対する講義教員としての教育となる様にしてほしい。できれば,これに参加すれば教員としての資格(単位)認定につながる方向性も考えていただけるとよいのではないかと思います」。「今年助手になったばかりなので,これから講義するにあたり非常に役立ちました」。「回数を重ねるほど内容がよくなっていくようです」。
  2. 形式についての意見:「モデル講義というよりも講演であったので,やはり学生向きに講義してほしかった」。「「学生に対する講義」の形式でやっていただきたい」
  3. 内容についての意見:「どの先生方の講義も充実した内容であり,また,刺激的で魅力的なレクチャーでした」。「学生からの意見がもっと通るようなもの。臨床に役立つ講義をして下さい。」「事象の本質を理解させる方法」
  4. 実習との関連での意見:「基礎で行う生理学実習は(全部ではないが一部の実習は)直接臨床とつながらなくとも医者となる上でのバックグランドとして重要と考えているが,臨床の先生方は違うのだろうか?その辺の意見交換ができればよいのではと思います」。「テュトーリアルの事例と実習の関係について。事例から学生自身が実験計画を立て,生理学を理解していければ良いと思います」
  5. その他少数ながら、全国の会員が関係する問題として、「CBT用問題作成に関して,各大学はどのように取組み(採択されるようにいかに工夫しているのか),問題作成と講義をどのように反映しているのかを知りたい。」と言うのがあり、今年度のCBT作問に今苦労されている現状が目に浮かぶようである。また、学生からの意見として「今回の様な学会に参加させて頂き本当に良かったです。学生がどんどん参加できて行けば大変良いと思うので,僕達学生もこの様な学会に積極的に参加して行けば良いと思います。」と、将来生理学会に参加してくれそうな雰囲気である。
最後にアンケートへご記入頂いた会員諸氏に感謝し、来年度のモデル講義がさらに会員の生理学教育に貢献することが出来るよう教育委員会として一層の努力をする予定です。

引用文献

1 松尾 理 日本生理学会の改革 日本生理学会誌 64:175-178、2002 2 医学歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告: 21世紀における医学歯学教育の改善方策について  ――学部教育の再構築のために――。 2001

教育委員会委員

松尾 理(近畿大、委員長)、河合 康明(鳥取大)、岡田隆夫(順天堂大)、森田啓之(岐阜大)、鯉淵典之(群馬大)、川上順子(東京女子医大)、渋谷 まさと(女子栄養大)、椎橋 実智男(埼玉医大)、山下 俊一(日本大)、石松 秀(久留米大)(順不同)。